山口雅子(やまぐちまさこ)
岩手県宮古市出身、浜松市在住。ライター、環境と食のアドバイザー、ヒプノセラピスト。中医薬膳指導員。静岡県環境学習指導員、浜松市環境学習指導者。防災士、ふじのくに防災士。
大学進学を機に上京。広告制作会社レマンを経て独立。渋谷のんべい横丁で飲み屋2 年。当時大学生だった夫と知り合い結婚、彼の就職先の浜松へ。夫の駐在に伴い渡米、5年間LAで暮らす。私の乳がん手術の翌年、夫が食道がんに。急きょ帰国するも半年後に夫逝去。現在は浜松在住。ライター、プランナーとしてフリーランスで仕事をしているほか、浜松市の移動環境教室の講師、食と環境、防災に関する講座やワークショップを行っている。2022年夏より「おむすびむすびプロジェクト」始動。
著書/「そばをもう一枚」(静岡新聞社)、「静岡・山梨のうまい蕎麦83 選」(幹書房)
山口雅子の健康講座 https://kenkokoza.hamazo.tv/
インスタグラム https://www.instagram.com/takuandmabo/
2020年2月15日
砂浴
今回は、山口雅子さんにお願いいたします。
インタビューはこれから隔週で3回に渡って連載されます。
1回目は、砂浴について語っていただきました。
—— 山口雅子さんは静岡県浜松市にお住まいで、執筆家としての本業の他にたくさんの引き出しをお持ちで多彩な活動をされています。まずは、雅子さんが幹事をされて毎年夏になさっている砂浴のことから伺っていきたいと思います。
山口:砂浴はもともと民間療法で、砂とか土に埋まって毒を取るということが全国各地でなされていたようです。江戸時代にも、例えば、ふぐにあたった人を、土を掘ってその中に埋めると毒が抜けてその人が助かるということが行われていました。
東城百合子さんという自然療法の大家の『自然療法』という本の中に砂浴・砂療法について書いてあります。私はそれを参考にして料理の仲間達と始めたのが最初で、もう20年近くなると思います。
—— その本を読まれて砂浴をなさるようになったいきさつを伺ってもよろしいですか?
山口:私は、子宮筋腫で子宮も取っているのですが、アメリカにいた2000年に乳癌になりました。当時、元阪神タイガースの捕手をしていらしたHさんとお会いした際にご本人がおっしゃったことですが、病院に行ったら「もう何も助かる方法はない。手術もできないしあと半年で亡くなる」と余命宣告されたのだそうです。彼は砂浴のことを何かで知り、カリフォルニアは目の前が海なので、すぐに始めたのです。
すると、警察官がやって来て「ここで何をしているのだ?」と聞かれて、「病気を治すためにやっているのだ」と伝えると、その警察官は「実は自分も体の具合が悪い」と言って翌日から一緒にやるようになったそうです。それを毎日毎日やっていたら、半年経っても死なない。おかしいなというのも変ですけど、全然体調も悪くならない。病院に行ったら先生に「なんだ、お前まだ生きていたのか」と言われて、結局癌が治ったというのです。それをご本人から直接聞いたので、記憶に残っていました。
やり方は、まず穴を掘ります。そこに埋まります。もっと細かく言うと、体の収まり具合とか脚の開き具合とかあるのですが、とにかく心地いい体勢にして、体に砂をかけていきます。首のあたりまで埋まるのですが、重くなるほど沢山はかけません。
—— 顔は出ているのですね?
山口:はい。直接日光には当たらない方が良いのでパラソル、傘などを使い、日除けを万全にします。人によってはサングラスをかけたり、手拭い一枚顔に覆ったりして、大体、私たちは朝7時とか7時半から始めてお昼くらいまで行います。
—— 特別な砂のある場所とか、砂浜には条件があるのでしょうか?
山口:もちろん綺麗に越したことはないのです。浄化するためにはその砂が汚いと良くない訳です。そこで、毎年調べて放射性物質の調査結果も出しています。ゴミ処理場のあるような所とか、サーファーや海水浴の人が多く来るような所は避けるように良い環境の所でやっています。聞いた話によると、猪苗代湖がものすごくいい場所らしいです。
—— 淡水でもいいのですね?
山口:はい、淡水でもいいです。ただそこでやっていた人たちは3.11以降どこかほかでということで、猪苗代湖と共にいい場所と言われていた遠州灘に流れて来ました。遠州灘の何がいいのかは分かりません。磁場がいいのか、気の流れがいいのか分からないけれども、いい場所と言われているそうです。
—— そうなんですか。どんなものを着て入るのですか?
山口:なるべく裸に近い方が良いので、男の人だったらふんどし一丁。女の人はそうはいかないのですが、水着、化繊はダメ。私はぶかぶかのランニングシャツみたいなものに、綿でゆるゆるのショートパンツみたいなものをはいて入っています。もちろん裸に越したことはありません。砂浴を始めると体の状態がいろいろ変わりますが、私は最初2年ほどとてもきつかったですね。
—— 体にきつさがあるのですか?
山口:そう。健康な人は気持ちよく寝るんです。でも私の場合は、全身に痛みが走ったり、部分的に痒くなったり、それがあちこちに動いていく感じなのです。ヒプノセラピーでインナードクターという言い方がありますが、本当に自分の中にそういうドクターがいて、あちこち探してくれている感じ。
—— 悪い部分というか、治す部分をですね?
山口:そうです。あと私は、やっぱり海がいいなと思うのは、目を閉じると波の音がする。湖や池って止まっているけど、それとは違って波が寄せては行く海は、浄化されている感じがするのです。
—— 自分に波はかからないのですか?
山口:波がかからない安全な所でやります。目を閉じると自分も砂になった感じ、粒々になった感じがするのです。いつの間にか体がなくなって、目を閉じていると、本当にだんだん地球と一体化する感覚になります。
—— 地球と一体化するというのはどんな感じなのですか?
山口:すごく気持ちいいのです。皆さん感じ方が違うかもしれないけど、私は粒々、素粒子とよく言いますが、そこにある物体も自分も全て本当は同じ。たいして変わらない。全部粒々という感じを実感します。
—— 雅子さんは、ご自身が砂に埋まった1回目にそんな感じを経験されたのですか?
山口:最初はあまり心地よくなくて、眠れなくて、しかもその時にハエがたかってきたのです。砂に埋まっている私の周りにハエがいっぱい来るのです。
—— え〜。何か体から出てくるのでしょうか?
山口:そう、何か体から出ていると思うのですけど、その匂いのためなのか、ハエがいっぱい集まってくるのです。でも、年々ハエは少なくなりました。
あと、砂から出たあとの自分が着ていたものの匂いがすごい。汗とは全然違う甘酸っぱいような強烈な匂いがしました。
—— それが自分の中から出てきたものなのですね。
山口:はい。東城百合子さんの本に例が出ていますが、例えば何年も前にやめた香水の匂いや、添加物などいっぱい摂っている人の場合は科学的な匂いです。よく助産婦さんが赤ちゃんを取り上げる時に、最近のお母さんのお腹が臭いと言いますが・・・
—— シャンプーとか柔軟剤の匂いとかがすると言いますよね。
山口:そう。私も長いこといろいろな治療をしてきて、ホルモン治療もしてましたから、やっぱり溜まっていたのだと思います。
—— 体の細胞の中に。
山口:溜まっていたものが出てきたのだと思います。
—— 砂に埋まっているとすごいいっぱい汗をかきますよね。
山口:はい、かきます。海水で砂が湿っているから、ものすごく汗をかいてもサウナのような実感はないけれど、かなりかいています。指宿の砂風呂は温泉で熱いため15分くらいしか入ってられませんが、砂浴だと何時間でもいられる。体の悪い人は時間をかけてやるのが良いと言われています。
—— 気持ちが良いものなのですか?
山口:健康だと気持ちが良いのです。
—— 雅子さんは、最初は痒かったり気持ちが良くなくて眠れなかったんですよね。
山口:でも、だんだん気持ちが良くなってきて、一体感を味わえるようになると、もう瞑想に近いものもあります。
—— ずっと埋まっていて、手足も動かないからじっとしているしかないですね。
山口:寝ているんですよね。本とか読む人もいますが、できればそういうことはしない方が良くて。
—— 頭を使うようなことですか?
山口:そう。何もしないで、ボーッとしているのが一番いいです。
—— やってみたいですね。素敵。
山口:ぜひやってみて下さい。それで実際にいろいろと病気が治った人もいます。
—— 雅子さんの場合、それをされるようになってから、身体に何か変化が起きたのでしょうか?
山口:乳癌は手術と放射腺治療を受けたあと、化学療法やホルモン治療はやっていませんが全く問題ありません。肺もピンポイント照射という方法で5日間の治療だけ行い、あとは何もしていませんし薬も飲んでないです。右の卵巣嚢腫があったのですが、それは自然退縮しました。多分砂浴と食事療法のおかげだと思います。
—— 先ほどお話しくださった地球と一体化する感覚。それが起きた時に、体の中で何か変化が起きるような感覚ってあるのですか?
山口:砂浴をやろうと思う人は、薬などに頼らないで自分の自然治癒力や免疫力を高めたいという気持ちのある人だと思うのです。自分の力だけではなく、自然には治癒力を引き出す力があると思っている気がします。
—— もともとそういう方向性の考えを持っている方ということなのですね。
山口:はい。というのがひとつと、本当に砂に力があるということが言われていて、例えば電磁波とか溜まっているものを外に出す、そういうアーシング的なことも最近言われています。あとは、気持ちをリラックスすること。粒々になった時に、自分を全て委ね、一体化する感じ。それを味わうと、悩みとか、病気など、いろいろなことが全部リセットされる感じがあるのではないかと思います。一度体験してみて下さい。
—— 雅子さんが毎夏開いてらっしゃる遠州灘での砂浴をぜひ体験してみたくなります。
山口:ひと夏に7、8回は やっています。
—— 実際に参加者の募集もされていて、砂浴をいろんな方にも体験してもらおうということで活動されているのかなと思うのですけれども。
山口:私たちが仲間数人で細々と毎年毎年やっていたのをブログに載せていたら、「それって私も参加していいですか、どうしたらいいですか」と、自然発生的に来るようになったのです。それで、そんなにやりたい人、必要としている人がいるのであればということで日を決めて、募集するようにしたというのが正確な言い方かなと思います。
参加費はいただいていません。砂浴と称してお金を取っている人たちがいるらしいのですが、海は誰のものでもないので、お金を取る方がおかしいのではないかと思っています。やり方はお教えしますが、基本的に自分で掘って自分でかけて自分で埋まって、自己責任のもとに行う。「砂をかけて下さい」という感じで人任せだと、真の健康は得られないと感じています。
—— 何だかそこに大切なことがあるような気がします。
山口:自己責任とはちょっと違いますが、「自分の中に治す力がある」というのは、誰かの力にすがるとか誰かに治してもらおうではないと思う。それがわかると、どうでもよくなると言ったら変ですが、治る治らないが問題ではないのかなと。極端な言い方ですがそう思います。
—— 治るか治らないかはあくまで結果であり、それよりも自分のありようがどうなのか、そこを問うことの方が大切だとおっしゃっていると思うのですが。
山口:誰にでも平等に死はやってくる訳だから、今の病気を治したから幸せとか、勝者敗者の問題でもないという気がしています。それよりどうして病気になったのかということを振り返ると、何か必ず原因はあるはず。やっぱり病気って自分で作り出しているし、それで守られていたこともあるかもしれないですよね。自分でそれがわかった瞬間に何かがほどけていくんだと思うのです。
—— 病気になった理由の部分をほどいていく。それは自分でやるしかない。誰かがああですよこうですよと言うことではないということですね。
山口:砂浴がどうして良いかと言うと、何時間もかかる。入っているしかないから、ある意味委ねるしかないし、自分を見つめるしかないのです。
—— 手放す良い訓練というか・・・
山口:そうそう。
—— 現代人は忙しくて、なかなかそういうことできないですものね。
山口:時間をどう過ごすかというのは、人それぞれですが、そんな過ごし方もあるということかなと。
—— すごく心にしみるお話ですね。
山口:すごく面倒くさいんですよ。砂まみれになるし、砂浴のあとも大変なんだけれども、なぜかまたしたくなるんです。
—— それでもまたやろうと思う何かがそこにあるのですね。たかが砂浴、されど砂浴、やってみるとさらに奥深さがわかるのでしょうね。
山口:そう思います。
—— 聞けば聞くほどすごく私も惹かれます。今日はこうして皆さんに雅子さんの砂浴の話をシェアさせていただけて、とても嬉しいです。深いお話をありがとうございました。
(インタビュアー・長岡 純)
2020年3月1日
災害時の食
山口雅子さんへのインタビュー2回目は、自然料理・災害時の食について語っていただきました。
—— 山口雅子さんがたくさんお持ちになっている引き出しの一つに、災害時の食という調理方法がおありでその講習会もされています。災害もあちこちで起きているので、私たちが本当に知っておく必要のあることだなと思います。
山口:もともと体と心・食・環境は全部結びついていると思っていて、まずは自分の体を整えるために自然料理を始めました。勝手に自然料理という言い方をしているのですが、どういうことかというと、添加物を使わない食材を用い、体に悪いものをなるべく入れない。以前の私は人より気をつけていた方ではあっても、あまりにも無頓着だったと思ったのです。
—— 無頓着だと思ったきっかけは何かあったのですか?
山口:病気になった時に、私はものすごく体をいじめていたな、申し訳なかったなと思ったのです。言い方を変えると、体を大切にしていなかったと反省した訳です。東城百合子さんの『自然療法』という本は、私のバイブルなのですが、実は母からもらったものです。なのに全く見ていなかった。でも病気になって読み出したら、どんな医学の本よりもそれが素晴らしいと分かってきて、やっぱり「病気治しは自分治し」だと思い、まず料理に取り組みました。
料理はもともと好きだったのですけれども、いい食材をちゃんと使おうとした時、和食の知恵ってものすごく素晴らしいと思ったのです。例えば、日本には、発酵食があり、乾物があって、保存がきくものを添加物を使わずに日本人はちゃんと作っていたのです。醤油にしても味噌にしても酢にしても全部発酵の力ですよね。
味噌仕込むのも年に1回、ちゃんと一年間持つようにやっている訳です。お米だって乾物で、年1回収穫して保管している。梅干もそう。年に1度採れるものを漬けることで何年間も持っている。この素晴らしさにまず気がついて、そういう日本人の知恵がいっぱい詰まったものを伝えたいというのが最初で、防災食をやろうと思っていた訳ではなく、体にもいいし、環境にもいいし、エコでもあるということでやっていたのです。そうしたら東日本大震災が起こりました。
私は岩手県宮古市の出身で、実家は1m40cmの津波による浸水被害を受けて解体されました。宮古には叔父もいたし、友人も岩手県に大勢います。あの時は東京でも買い占めということで物がスーパーやコンビニから消えて、本当に必要な人の所に必要な物が行かないという状況にすごく胸が痛みました。その時に私は物を買わないと決めたのです。震災直後から何も買わずに私も被災地の人たちと同じに…
—— 同じように生活しようと?
山口:とにかくあるもので暮らしてみようと決意したら、何も買わなくても1週間暮らせたのです。特に非常食を備えていた訳ではないけれど、何だ、暮らせるじゃないかと思って。それはどういうことかというと、普段から私はお味噌も梅干も自分で作るし、他にもさまざまな乾物や塩漬けのわかめなど何かしらある。あっ、もし皆がそのようにすれば、結構助かるのではないかなって思ったのです。
―― 災害時の食を作られるようになったきっかけですね。
山口 :それと、テレビを見ていたら、避難所でなぜか皆ダンボールの仕切りの中でじっとしているじゃないですか。どこかから配給されたパンやおにぎりを、ありがとうございますって小さくなって食べていたり、炊き出しだといって並んだりしていて、何か変だな、ちょっとおかしくないかと思ったのです。災害が起きたらそうするものとみんな思っているみたいですが、実際、家は大丈夫だということも多い訳です。すると物はあるはずです。でもライフラインが止まっている。だったら、どうしたらよいか、みんなで作ろうとか、そうならないのが不思議だったのね。
—— そうですね。言われてみれば。
山口:何というか、これまで普通に自立した生活をしていた人たちが被災したらいきなり恵んでもらう立場になって惨めな思いをする。何かしてあげたいと支援する側は逆に恵んであげるではないけど、上からの態度になってしまう。
救援物資が人数分ないから断ったとか、不公平だとか、そんなのもすごく変な話だし、私、嫌だった。せっかく日本人のいろいろな知恵があるのだから、家が無事ならば食材を持ち寄って、もうちょっと良い方法が何かあるだろうと思ったのが、災害時の食のきっかけなのです。
それと、東日本大震災のあとにボランティアでいろいろな所を廻った時、当時教頭をしていた先生から、家は高台にあり大丈夫だけれども、いきなりライフラインは全部止まり、テレビも映らず状況が掴めないまま、救援を待ってもずっと来なかったと聞かされました。不安ですよね。
—— 自力で生き抜くしかないですね。
山口:そう思います。そういうことがあって浜松では普段の食の講座で、まず皆で災害時の食事についてちょっと考えてみましょうとか、原発のことが心配だったので、放射能の毒を出すには味噌がいいとか、いろいろ皆で学び合ったりしているうちに、防災食・災害時の食について何かやってくれませんかという要望が出てきたのです。
—— どこから出てきたのですか?
山口:あちこちの自治体だったり、お母さん達のグループだったりです。私は浜松市と静岡県の環境学習指導者の資格も持っているのですが、エコな料理とかポリ袋ご飯の提案をしています。浜松市のホームページにも載っています。学校とかから申し込みがあれば、市から派遣されて授業をします。そういう要望も増えました。
ポリ袋ご飯というのは、検索すればいろいろなやり方で出てきますが、いかに時間をかけず、美味しく、衛生的に食べられるかという点に私の工夫が入っていると思うのです。
—— すごいですね。習ったことをただ教えるのではなく、必要に応じてご自身で考えていかれたのですね。
山口:ポリ袋ご飯についてはもっと効率の良いやり方があるのではないかと、何十回、何百回と繰り返すうちに、誰がやっても失敗しないやり方を考え出したのです。
—— 災害時には練習してからという訳にはいかないですからね。誰でもできないと役に立たない訳ですよね。
山口:そうです。書いてあるのを見てやってみても失敗するケースが多いんです。炊き上がった時に袋に穴が開いてしまい、お湯が入ってしまった、中身が出ちゃったとか、おかゆみたいにできたり、硬いのができたり…。どうしてかなと思っていました。私たちには容易なことでも、お米と水を入れたら袋の上をクルクルクルと巻いて輪っかにして、あとでパッと外れる仮の結び方、まずそのクルクルができない人がいることも知りました。また何人分もの量を一気にやろうとするとすごく時間がかかるのです。
—— でもビニール袋でご飯が炊けるのにはびっくりです。
山口:ビニールは塩ビのことなので、ビニールではなくてポリエチレン袋。100度以上に耐えられる高密度のポリ袋を使います。お鍋の底にお皿を一枚置くといいです。沸いてるお湯の中で袋がお鍋の底に直接触れてしまうと危険ですが100度に耐えられるポリ袋でさらにお皿一枚底にあれば絶対大丈夫です。
—— だから袋が溶けない訳ですね。
山口:ジプロックみたいなものは駄目です。透明でなく半透明のシャリシャリしたポリ袋ですね。私はそれにお米半合と水を入れて一人分おにぎりを作ることを提唱しています。どうしてかというと、災害時って不衛生で、夏だと食中毒の問題もあるし、贅沢に洗えるような環境ではありません。そんな時に一人ずつおにぎりが作れれば、素手で材料を触ることがないので衛生的なのです。
—— 袋に入れたまま握るのですね。いろいろと削ぎ落として合理的に考えられているのですね。
山口:それだと器はいらないし洗い物もない。おむすびならポリ袋から剥がれやすく、衛生的、それで美味しいです。もし残っても自分の物としてしまっておけます。私は、災害時であっても1日に1回は温かいものを食べましょうと推奨しています。
—— 素晴らしいですね。一回それを体験しておけば、いざという時にそこにあるものだけでできるということですね。自分で作って温かいものが食べられますしね。
山口:そうなのです。絶対役に立ちます。お米を洗わなくてもいいし、最小限の本当に炊くだけの水ですぐできます。究極、調理道具を使わずにポリ袋で煮物もできます。鯖缶とお麩と切り干し大根というのを私は子どもたちにも教えます。尤も(もっとも)ひじきは煮ないと食べられないと皆さん思っているけれど、実は一回炊いた物なので火を使わなくても食べられるし、切り干し大根も煮物でしか皆知らないけれども、煮なくても食べられます。食材を組み合わせながら今、講座で作るレシピは10種類以上ありますよ。
—— 防災食というと乾パンとかを想像しますけど、そういうものとはまた別で自分で作ることができるということなのですね。
山口:ローリング・ストックという言い方をするのですけど、日頃使う乾物や缶詰など保存がきく物を常に1週間分多く用意しておく。それを普段から使って作り慣れていると、いざという時に困らないですね。
—— 日本に古くからあるもの、自然の恵みを大切にする生き方、雅子さんが大事にされているものがこの防災食にも入っているように思います。昔から食べてきた普通のものが、災害の時も私たちの健康を維持していく力になってくれるということかと思います。
山口:出汁を取る際、インスタントのものを皆、使いますよね。「だし」をただ入れるだけ。実際は、サッと使える状態にしてくれた人がいるから私たちは簡単に出汁が取れるのであって、あそこまでにするにはものすごい苦労があるわけです。自然の恵み出汁、本当の旨味出汁ということを知ってほしくて、たとえ災害時でもインスタントではなく、昆布や干し椎茸そのものを使ってやっています。
—— 普段からそういうものを意識して食事に取り入れることができていれば、災害時でもできるし、体にもいいし、環境にもいいということですね。何かすごく考えさせられますね。普段自分が何を食べているのか、まずそこから見つめ直したい。
それから、雅子さんの「災害時の食」の講習を受けたい方はどうしたらいいですか?
山口:数人でも数十人でもいつでも要望に応じて開催します。
—— どこかに雅子さんが出かけて行って教えてくださるのですか。
山口:はい。10人程度であれば私一人で、学校や自治体など人数が多い場合は環境学習の仲間と一緒に行っています。
—— そうですか。ホームページを見れば、問い合わせできる訳ですね。
山口:はい。お問い合わせください。
—— ありがとうございます。
(インタビュアー・長岡 純)
エコ料理メニュー一例:
ひじきとコーンの和え物
ビーンズ入りポテトサラダ
切干大根と麩と鯖缶の煮物
トマト風味パスタ
簡単オムレツ
おにぎり(ポリ袋ご飯)
デザートにお麩トリュフ
2020年3月20日
社会も人も愛しむ生き方
——私共のウェブサイト「21世紀共育ラボ」の運営母体でもある一般社団法人ちいさなありがとう基金では、昨年4月から「INORI桜プロジェクト」を主催しています。和紙で桜のちぎり絵を創っていただき、その実費を除いた収益金を主に発達しょうがいの子どもたちの支援に寄付しています。自作のチラシを雅子さんにお見せしたところ、「もっとこうしたら良くなるのでは」とアドバイスがあり、制作を申し出てくださいました。
山口:長岡さんと知り合ったのはだいぶ前になりますが、こういう活動をしていると知ったのは去年の初めだったでしょうか。素敵な活動だなと思いました。ただそのチラシを見た時に、分かりにくい(笑)。すごく熱い想いを感じるんだけれども、それが伝わるチラシになっていないのがもったいないと言うか、もどかしいと思って、ついついお節介で私がやると言っちゃったのね。
——このプロジェクトのために力を貸していただき、お陰さまでチラシは格段に素晴らしいものになりました。ただ、新型コロナウイルス蔓延防止策から、浜松で予定していた催しを中止せざるを得なくなり残念でした。
山口:チラシ作成にあたっては、何度も長岡さんたちとやり取りする中で、ますますこのプロジェクトを人に伝えたいという思いを強くしました。そして、浜松の私の仲間も共感し、チラシの制作を手伝ってくれたり、イベントの計画に力を貸してくれたりしました。それだけに開催の中止はやむを得ない判断ですが、とても残念でした。
——雅子さんはコピーライターやフリーランスのライターなど、いろいろな経験を長年積んでこられて、執筆家として本の出版もなさっています。
また地元の情報誌に創刊(2017年)から発達しょうがいをテーマとした記事の編集にも関わっていらっしゃいますが、その経緯について教えてください。
山口:発達しょうがいについての記事は、最初のうち、施設やカウンセラーへの取材を重ねてきましたが、読者からお便りで感想や意見がどんどん寄せられるようになりました。
そこで発達しょうがいのお子さんを持つ親御さんからの声を聞き、座談会なども行って、できるだけ当事者の声を伝えるようにしています。
——発達しょうがいについて取り上げようと考えたのはどういったところからでしょう。もともと関心をお持ちだったのでしょうか。
山口:私が発達しょうがいについて関心を持ったのは、10年ほど前に、環境省環境カウンセラーの馬場利子先生の環境講座を受講したのがきっかけです。発達しょうがいを抱える子どもたちが近年どんどん増えているのに、周りの人が何も知らず理解を持たないという状況はおかしいと思ったからです。周りの理解と正しい対応、支援がなければ、不登校やいじめ、引きこもり、差別、いろいろなものを生み出していくと思いました。こうしたことを伝えるのは、それこそ地域に根差した情報誌の役割だと思ったからです。
——そういう経緯があったのですね。そして、情報誌の発刊を機に、発達しょうがいの方々に焦点を合わせたページを設け、皆さんの抱えている問題、周囲を取り巻く環境を誠実に読者に伝えているのですね。
山口:それと、当事者の話が取り上げられている記事は当時少なかったんです。それではなかなか読者には響かないのではと思いました。
——実際の記事を拝見すると、相手の立場に立ち、気持ちに寄り添い取材されているのが伝わり、読者から共感されるのでは、と思いました。
山口:ありがとうございます。創刊当初は、実例は入れてありましたが、どちらかというと、専門的な立場からの解説という感じでした。それが、だんだん反響が出てきてからは、できるだけ当事者の声を拾って伝えるような記事の内容へと変化していきました。
——読者で思い当たることがある方も、「あ、そんなふうに私も考えればいいんだ」と、きっと共感され反響が広がっていったのでしょうね。
山口:そうだと思います。発達しょうがいと言ってもさまざまで、ケースバイケースであるにもかかわらず、一般の人はすべて同じだと思い込んでいるところがありますよね。もっとちゃんと知ってもらうためには、多くの当事者に直接話を聞く方がいいのではないかと試行錯誤しながら、今日のようなスタイルになりました。 ちょうど同じ頃、仕事でお世話になっている「はままつフラワーパーク」の塚本こなみ理事長からも、「発達しょうがいや引きこもりの子どもたちに、花やみどりを通して教育につなげたい」というお話を伺っていました。そして、「INORI桜プロジェクト」の話をしたところ、「それはとても意義のある素晴らしい活動ですね」と言っていただいたんです。
——それは私たちにとっても励みになる嬉しい言葉です。塚本こなみさんと言えば、以前足利フラワーパークの園長をされていた方で、絶対に無理だと言われていた、フジを移植して再生させるということで高い評価を得ている方ですね。
山口:はい。そうです。
——植物がもたらす力をよくご存知で、植物が人を癒し、時には生きる力や背中を押してくれる力にもなることを熟知されている方と聞いています。
山口:こなみさんとのお付き合いは長いのですが、どこか考え方に通じるものがあると勝手に(笑)思っています。
——例えばどんなところですか?
山口:植物も人間も同じ生命を持ち、みな大事な存在であり愛おしい存在ですよね。
その生命を育む際、一人ひとりが持っている力を伸ばすという点で、植物も人も共通するところがあると、こなみさんはおっしゃっています。「木がちゃんと育って花を咲かせるには、まず根が大事なのよ」と。その見えない部分の根を育てるというのは、勝手に養分を与えるとかではなくて、やっぱり「手をかけ、心をかけ、時間をかけ」と。それは子育てとかにも通じるのではないでしょうか。
——育むという点で大事なところは、植物も人間も同じなんですね。
最後に、山口さんのこの仕事における根っこの部分についてお話を聞かせてください。
山口:根が大事と心底思えたきっかけは、私の病気と不妊治療です。10代から生理がきつく、20代で内膜症、子宮腺筋症となり、30代で子宮筋腫の手術をしました。新聞で「ダイオキシンが子宮内膜症、子宮筋腫の原因になっている」という記事を読み、化学物質、環境ホルモンと健康について調べたことも関係しています。環境講座を受けたあと私は、静岡県環境指導者の資格を取得し、声がかかると、環境ホルモンや食品添加物など化学物質と健康への影響について講座を開くようになりました。それでまた、こうした問題は妊婦や子どもへの影響が大きく、発達しょうがいの原因の一つにもなっていると知りました。
社会的問題であれば、社会に伝えていかなければ根本は変わりません。発達しょうがいの子どもたちの現状はどうなんだろう?親は?教育環境は?と、あまりに何も知らなかった自分に愕然とし、これはちゃんと調べて、当事者に話を聞き、伝えていかなくては、と思ったのです。それがジャーナリストとして、私ができる方法だと思いました。
——山口さんの根っこの部分に触れて、無理と思われることが肥やしとなり、樹木が見事に再生していく姿を重ねました。この3回の連載を通して、山口さんが、社会を、人を、愛おしみ育み、全身全霊で生きていらっしゃる姿を間近に感じさせていただき、私も背中を押してもらいました。ありがとうございました。
(インタビュアー・長岡 純)